第144回教父研究会のご案内

第144回教父研究会は、2013年6月8日(土)に、上智大学11号館505号室において開かれます(総会: 13:30-14:30、発表: 14:50-18:00)。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。
 この件に関するお問い合わせは教父研究会事務局にお願いいたします。

〒192-0393 東京都八王子市東中野742-1
中央大学文学部 土橋茂樹研究室 (tsuchi[AT]tamacc.chuo-u.ac.jp)


  • 宮本久雄(上智大学教授)「フォーティケーのディアドコス」
    • メッセージ 本発表では、五世紀の神学者・修道者フォーティケーのディアドコスの修徳神学に関わる。またその時代には、単性説、オリゲネス主義、メッサリア派などの、いわゆる異端が跋扈しており、彼はこれらの異説に対する反論も行なっている。この反論についても修徳神学との関連で取り上げたい。さて、ディアドコスの修徳神学は、後世ヘシュカスムとその神学とを先駆的に含んでいる。すなわち、イエスの御名の祈り、情念論、霊的感覚、知性における光の体験、愛、プネウマ(気)の働きなど、興味深い思索と体験が表明されているのである。その方向性は、次のような断章八九に顕著である。
       「再生の洗礼を通して聖なる恩恵はわれわれに2つの善美なる恵みを授ける。そのうちの最初の恵みは、他方よりもはるかに勝る。最初の恵みは直ちに授けられる。なぜなら、それは水そのものにおいて我々に新生を授け、そして我々の罪の汚れを清めて霊魂のあらゆる特質、つまり神の似姿を輝かせる。他の恵みは神に類似することで、我々の協働を待っている。というのも、知性が聖霊の恵みを深く感受して味わいはじめるとき、聖霊によって神の似姿の上にいわば神への類似性が次第に書き加えられることを知らなければならないからである。」
       ディアドコスはフィロカリアの精神が開花するエネルギーに満ちた時代の機運と動態をわれわれに明かし、現代における人間の生にある方位を示し、大いなるエネルギーを与えてくれるのである。
  • 益田朋幸(早稲田大学教授)「オフリドの聖母聖堂における旧約の予型論的解釈」
    • メッセージ オフリド(マケドニア)のパナギア・ペリブレプトス聖堂は、1294/95年の年記を有する、後期ビザンティン美術を代表する基準作例でありながら、これまでまとまった研究がなされてこなかった。この聖堂に描かれた旧約の諸場面・人物は、予型論的解釈の下、聖母マリアとむすびつけられている。本発表では、そのいくつかの面を具体的に分析する。
       ナルテクス(玄関廊)には、「モーセと燃える柴」「ソロモンのベッド」「神殿を建てるソフィア」「エゼキエルの閉ざされた扉」「モーセの幕屋」「ダニエルの夢解き」「ヤコブの梯子」の7主題が描かれている。後期ビザンティン美術(13~15世紀)に頻出する聖母予型場面の初出作例である。旧約の個々の場面の解釈については、初期以来の教父の伝統があるが、聖母予型を列挙する伝統としては、ロマノス・メロドスをはじめとする賛歌作者が考えられる。加えて9世紀の神学者、コンスタンティノポリス総主教ゲルマノスやクレタ主教アンドレアスらの寄与も重要である。
       アプシスの周囲には29のメダイヨンが並べられ、主として旧約の人物像が配されている。人物の選択と配列には、教父の解釈に則った数字のシンボリズム(「三」は三位一体、「十二」は十二使徒、等)が見られる。特にそれほど重要ではない預言者フルが、本聖堂では多義的な役割を担わされている。「磔刑」を予型するだけでなく、信徒に水=恩寵を与える聖母を助ける者としても機能するのである。