第141回教父研究会のご案内

第141回教父研究会は、シンボリズムを共通テーマとし、3名の方々のご提題を中心としたシンポジウムの開催を予定しております。研究会は、2012年9月29日(土)13時~17時、聖心女子大学1号館4階大会議室において開かれます。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

  • リアナ・トルファシュ(筑波大学非常勤講師)「ディオニシオス・アレオパギテースのシンボル解釈とその原理―聖書における若干の実例―」
    • メッセージ:周知のように、いわゆる『ディオニシオス文書』は六世紀の前半頃に知られるやいなや、キリスト教の伝統において絶対的権威とみなされ、神秘思想や否定神学、神学的美学、スコラ哲学などの各分野に、千年以上にわたり多大な影響を与え続けてきた。他方で、同伝統においては、『文書』が聖なるシンボルにまつわる根本的な文献であることも広く認められている。というのも、『文書』で述べられている聖なるシンボルの理論は、キリスト教世界における同様の伝統理論の中で、最も完成されているからである。ところで、ディオニシオスのシンボル理論がもつ諸側面を、様々な観点から区別することができる。例を挙げるなら、シンボルが存在し得る宇宙論、割符としてのシンボルがもつ意味、シンボルの存在論的および形而上学的基礎、シンボルの使用文脈(聖書や秘蹟におけるシンボル、また、それについて解釈・説明を行う際に、ディオニシオスが用いる他のシンボル)、シンボルの必要性、目的、役割、シンボル解釈の原理、シンボル解釈を行なう者にとって必要な条件など。
      本発表の目的は、ディオニシオスにおいて 1)シンボルの解釈を司る原理とは何かを、また、2)解釈を行なう者が満たすべき条件とは何なのかを明らかにすることである。そのために、聖書の記述から幾つかのシンボルを例に取り、こうしたシンボルについてディオニシオスが行なう解釈を紹介・分析したい。
      キーワード: 対応、類比、非類似的類似性、観照、上昇
  • 中西恭子(明治学院大学教養教育センター非常勤講師)「ユリアヌス「ガリラヤ人駁論」とナジアンゾスのグレゴリオス「ユリアヌス駁論」における神話と象徴解釈」
    • メッセージ:紀元後四世紀のローマ皇帝、ユリアヌスの宗教観の根底には、人工的に再構築した「父祖代々の習慣」に回帰することで後期ローマ帝国における倫理の頽廃を除こうとする教化的な意図がある。キリスト教批判の書「ガリラヤ人駁論」でユリアヌスは、寓喩的・教訓的解釈を媒介とせずに聖書を読む立場から、旧約の登場人物の不品行の挿話や、磔刑に処せられた謀反人としてのイエス像を人倫の範型をもたらさない現象として指弾した。ヘレニズム・ローマ神話の神統譜および英雄叙事詩にも顕著にみられる神々の怒りや不品行に関する挿話を論じることを彼は故意に避けている。
      神話に対するユリアヌスのこのような態度は、異教的想像力の典型例ではない。ナジアンゾスのグレゴリオス「ユリアヌス駁論」は、このことを明らかにする。グレゴリオスは、ユリアヌス治下で信仰の相違から宮廷医師を辞した弟カイサリオスからユリアヌスの人となりや言動に関する情報を得ていたが、直接にユリアヌスの著作を読んでいた形跡は薄い。彼の描き出すユリアヌスの「ギリシア人の宗教」はきわめて人工的な構築物である。在来の地方宗教の多様な活力や神話の猥雑さのみならず、信仰の模範としての殉教者たちの存在や、寓喩的・教訓的な解釈が神話解釈を豊かにする可能性から目を背けるユリアヌスに対して、グレゴリオスが提示しようと試みたより包容力豊かな象徴解釈とははたしてどのようなものだろうか。本発表では、「ユリアヌス駁論」における十字架の徴の解釈を手がかりに、両者の神話および象徴解釈に対する態度の相違について考察を試みたい。
  • 坂田奈々絵(上智大学神学研究科博士後期課程)「シュジェールの光-擬ディオニュシオスとの類似と断絶について」
    • メッセージ:サン=ドニ修道院長シュジェール(1080-1151/1/13)の指揮のもと、1140年と1144年に完成し、献堂式が執行されたサン=ドニ修道院附属聖堂の西正面部分と祭室部分は、「ゴシック建築」と呼ばれる建築様式の端緒であるとされてきた。シュジェールはこれらの改築作業と献堂式のありさまを、主に『統治記(”Sugerii Abbatis Sancti Dionysii Liber de Rebus in Administratione sua Gestis”)』および『献堂記(”Scriptum Consecrationis Ecclesiae Sancti Dionysii”) 』に書き記した。美術史家のE.パノフスキーは、シュジェールによって聖堂の各部分に刻まれた碑文や、度々行われる宝石の美についての省察の中に、擬ディオニュシオスに端を発する「光の形而上学」からの影響を見出し、シュジェールをその影響下にある人物として紹介した。そのためゴシック建築という建築様式は、擬ディオニュシオス神学の西欧における需要例の一つとして広く解釈されてきた。しかし現代では、様々な立場から、擬ディオニュシオスからシュジェールへの直接的な影響は否定されてきている。
       本発表ではこうした背景を踏まえ、パノフスキーがシュジェールを「光の形而上学の影響下にある」とみなしたところの彼特有の「光」の働きと役割について、主に『統治記』の記述にもとづいて分析し、また擬ディオニュシオスの光の思想とどのように異なっているのか、あるいはどのように類似しているのかについての考察を行う。それによって、シュジェールという人物がゴシック建築に何を見、何を重要視していたのかを明らかにしたい。

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